高次脳機能障害の慰謝料で保険会社と争点になるポイントとは?
本人あるいは家族が交通事故で脳に外傷を受けて高次脳機能障害になった場合、保険会社との示談交渉を「どうれすればいいか分からない」「どれぐらいの慰謝料が貰えるか不安」という人は多いと思います。
高次脳機能障害は、甚大な損害が発生するため、数千万円単位のかなり高額な慰謝料になってきますが、その分、保険会社と争う可能性が高いことも事実です。
そこでこの記事では、高次脳機能障害の慰謝料で保険会社の争点になるポイントと適正な後遺障害等級を獲得するためのポイントについて解説していきます。
目次
どのような事故で高次脳機能障害になる?症状は?
激しい正面衝突や猛スピードでの追突事故など、交通事故の度合いが大きい場合は、頭に大きな衝撃を受けたことで脳が損傷し、高次脳機能障害が生じることがあります。
高次脳機能障害とは「記憶力が悪くなった」「計画を立てられない」「感情のコントロールができない」などの神経心理学的障害のことです。
頭蓋骨骨折を伴わない脳の損傷は後遺症の存在が目に見えてわからないことがほとんどです。そのため、家族も「事故の影響で疲れているのだろう」、「事故の記憶により少しイライラしているのだろう」程度に考えることも多いです。
事故後社会に復帰し、退職に追い込まれてから家族がおかしいと気づき、その段階で病院に行きはじめて高次脳機能障害の存在を知ることもあります。このため、高次脳機能障害は後遺障害等級認定において多くの問題を抱えています。
高次脳機能障害についての基礎知識
高次脳機能障害は、交通事故で頭部に外傷を受けることにより発症します。脳損傷には「脳挫傷や脳卒中(脳内出血)」と「びまん性軸索損傷」に分類できます。びまん性のものは、脳全体に損傷が及んでいる状態のことを指します。
高次脳機能障害を発症すると「失語症(言語の障害)」「記憶障害」「注意障害」「遂行機能障害」「社会的行動障害」など「認知障害」全般が生じることになりますが、外傷以外の脳梗塞、くも膜下出血などによっても発症することがあります。
この症状は外見上の変化が見られないこともあって、事故前の状態に回復したかのように見られることも多々あります。しかしながら、高次脳機能障害の症状は、精神の障害であるため社会生活が上手くできなくなることがよくあります。
特に、びまん性脳損傷の高次脳機能障害は障害の存在が見えにくいため、家族だけでなく医師も障害の存在に気付かないことがあります。これは、高次脳機能障害専門の病院で診断治療を受けていないことが原因の場合もあります。
高次脳機能障害の後遺障害等級は?慰謝料相場は?
高次脳機能障害の後遺障害等級は、障害の程度によって1級、2級、3級、5級、7級、9級に分けられており、等級に応じた後遺障害慰謝料と労働能力喪失率が定められています。
等級 | 後遺障害等級認定基準 | 自賠責基準 | 弁護士基準 | 労働能力喪失 |
---|---|---|---|---|
第1級1号(別紙1) | 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、常に介護を要するもの | 1,600万円 | 4,000万円 | 100% |
第2級1号(別紙1) | 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、随時介護を要するもの | 1,163万円 | 3,000万円 | 100% |
第3級3号 | 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、終身労務に服することができないもの | 829万円 | 2,219万円 | 100% |
第5級2号 | 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの | 599万円 | 1,574万円 | 79% |
第7級4号 | 神経系統の機能又は精神に障害を残し、軽易な労務以外の労務に服することができないもの | 409万円 | 1,051万円 | 56% |
第9級10号 | 神経系統の機能又は精神に障害を残し、服することができる労務が相当な程度に制限されるもの | 245万円 | 616万円 | 35% |
高次脳機能障害の後遺障害の慰謝料相場は各等級により、自賠責基準・弁護士基準(裁判所基準)の2つの基準が設けられています。自賠責基準は交通事故被害者に最低限の保障を行うことを目的としています。これに対し、弁護士基準は裁判所基準とも呼ばれており、最も適正な慰謝料基準とされています。
また、保険会社は保険自由化に伴いそれぞれの会社が独自の基準を設けていますので、明確な基準は存在していませんが、自賠責基準より少し高く、弁護士基準よりはるかに低い基準が設けられています。
上記の表を見てもわかるように自賠責基準と弁護士基準では、請求できる後遺障害慰謝料に約3倍もの差が出ます。しかも、この基準が採用されるのは入通院慰謝料や逸失利益など、損害賠償請求できる慰謝料全般です。
保険会社との示談交渉ではどの部分が争点になるか?
高次脳機能障害を発症すると、若年者でも就労が困難になるケースが多く、介護を必要とすることも多いため、家族の精神的負担が大きいことから被害者には十分な補償がなされるべきです。
しかし、実際には損害賠償請求に関係する事柄であるため、等級認定の要件は決して甘くはありません。ごく稀にはじめから妥当な等級が認定される人もいますが、事故後いくつかの選択肢の誤りにより、妥当な等級が認定されない人の方が圧倒的に多いのが実情です。
保険会社との示談交渉で争点になるのは「高次脳機能障害の存在」と「後遺障害の等級」です。交通事故によって高次脳機能障害が発症した事実は自覚症状だけでは証明できません。高次脳機能障害の存在を立証するだけではなく、症状に応じた等級を認定してもらうためには、障害の程度も立証する必要があり、「画像検査」「神経心理検査」が重要なポイントになります。
画像検査
びまん性脳損傷の場合は、CTでは異常が見つからない可能性もあります。CTやMRIの他にも、SPECT、PETなどの画像所見が必要になることもあります。
神経心理検査
高次脳機能障害には遂行力が低下する認知障害をはじめ、人格変化、注意障害、遂行機能障害などの様々な症状があり、程度を客観的に測るための様々な検査があります。
軽度意識障害の検査
- 見当識チェック
- Digit Span
- Serial7
知能テスト
- 長谷川式簡易痴呆スケール改訂版(HDS-R)
- MMSE
- WAIS-R(ウェクスラー成人知能検査)
- コース立方体組み合わせテスト
- RCPM(レーヴン色彩マトリックス検査)など
言語機能のテスト
- 標準失語症検査(SLTA)
- WAB失語症検査
記憶検査
- WMS-R(日本版ウェクスラー記憶検査)
- Benton視覚記銘検査
- 日本版リバーミード行動記憶検査
- 三宅式記銘検査
遂行機能検査
- WCST(ウィスコンシン・カード・ソーティングテスト)
- FAB
- TMT
- BADS
注意障害
- PASAT
- Trail Making Test
- 仮名拾い検査
頭部外傷を扱う脳神経外科は多く存在しますが、これらの検査を受けるには、高次脳機能障害に対応できる専門の医療機関を選ぶ必要があります。また、後遺障害の認定を受けるためには、高次脳機能障害に詳しい医療機関に通院し、画像所見や意識障害の変化、神経学的所見などを記録しておくことが重要です。
保険会社はどのような主張をするか?
高次脳機能障害の後遺障害等級の認定には5つの条件があります。下記の5条件のうち1つでも該当するものがある場合は、障害の程度に合わせて後遺障害が認定される可能性がありますが、保険会社は被害者本人の自覚症状はほとんど視野に入れていません。
高次脳機能障害の等級認定には5つの条件が定められており、これをクリアしていないものや、疑わしいものはすべて否定し、ほとんどのケースで低い等級を提示してきます。
- 初診時に頭部外傷の診断があり、頭部外傷後の意識消失(半昏睡~昏睡で開眼・応答しない状態:JCSが3桁、GCSが8点以下)が少なくとも6時間以上、もしくは、健忘症あるいは軽度意識障害(JCSが2桁~1桁、GCSが13~14点)が少なくとも1週間以上続いた症例
- 経過の診断書または後遺障害診断書において、高次脳機能障害、脳挫傷(後遺症)、びまん性軸索損傷、びまん性脳損傷等の診断がなされている症例
- 経過の診断書または後遺障害診断書において、高次脳機能障害を示唆する具体的な症状、あるいは失調性歩行、痙性片麻痺など高次脳機能障害に伴いやすい神経徴候が認められる症例、さらには知能検査など各種神経心理学的検査が施行されている症例
- 頭部画像上、初診時の脳外傷が明らかで、少なくとも3カ月以内に脳室拡大・脳萎縮が確認される症例
- その他、脳外傷による高次脳機能障害が疑われる症例
ひとつ事例を紹介すると、平均的な26歳男性会社員に後遺障害7級が認定されたものの、保険会社が提示する低い等級と金額に納得できず、訴訟を提起したケースでは、裁判所は被害者側が提出した資料から後遺障害5級に該当すると認め、損害額9,300万円が認容されたという判決が出ています。
この裁判では、保険会社側が提示した示談金約2,000万円に対して7,300万円が上乗せになりましたが、このように等級の違いによって損害賠償額も大きく違ってきます。
これは被害者から依頼を受けた弁護士が様々な立証証拠を用意し、裁判所に認めさせたケースですが、もし保険会社が提示する低い示談金を提示してきた場合は、その根拠を覆すだけの証拠を用意する必要があるということです。
高次脳機能障害の事故被害を弁護士に依頼するメリット
交通事故の適正公平な解決のためには、どうしても医学的な視点が必要となります。そのためには医学の専門家がどう判断していたのかということを重視せざるを得ないのです。
しかし、医師は医学的なことはわかっていても、後遺症の認定という分野のことは詳しくないのが普通です。どのような資料を揃えれば後遺障害が認定されるのかは、交通事故の専門家にしか判断することはできませんので、交通事故の法律を熟知している弁護士にサポートしてもらうことが重要です。
高次脳機能障害の損害賠償額を弁護士に依頼することで、後遺障害等級認定の可能性が限りなく高まることはもちろん、弁護士が全ての手続きを行ってくれますので、被害者が手続きをする必要がなくなり、リハビリに専念することができます。
さらに、3つの基準の中で最も高い弁護士基準で慰謝料請求しますので、慰謝料増額に大きな成果があることは間違いありません。
高次脳機能障害の等級認定請求で、保険会社が低い等級を提示するのはもはや常識的なことになっています。高次脳機能障害の適正な等級を認定してもらうためにも、保険会社の対応が少しでもおかしいと感じたり、等級が妥当なのか分からないという場合は、事故に強い弁護士に相談してみることをお勧めします。
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